(コラム)傾斜水路を薄く流れる水がうろこ状の紋様をみせる理由1
先日、某ダムの点検放流を見る機会があった。
このとき、放流水路を流れていく水が魚のうろこのような紋様をみせており、とても綺麗だった。
一緒に物見遊山をした友人に「これはなんで起こるのか(現象としてどんな説明ができるのか)」を問われ、「いや~、全然わかんないな~」と答えたが、気になって2,3日調べていた。私、一応ドボクの人なので。
↓↓↓参考画像↓↓↓
出典:https://www.jcca.or.jp/files/achievement/photo_contest/kouhyou24.pdf
有識者ネットワーク
有識者ネットワークに照会し、聞いてみたが、ダムの設計の上でトピックになるような事象ではないらしい。
例えば、こうした方が水のエネルギーがより失われるとか、空気と混ざって水質的によい、といった、実用上意味のありそうな現象ではなかったことがわかった。
しかし、実際に美しいので、点検放流の際には、この紋様がよく見えるような流量に設定してあることも多々ある、という情報を得た。
一緒にダムを観に行った人にドヤれそうな知識
いきなり脱線するが、ダムの放流水路の越流部(と呼ぶが、名前がわからん、貯水池から出るところ)がなんともいえない自然な丸みをしてることをご存じか。
ダムじゃなくて堰、いや、たまに浴槽のヘリ部でも似たような丸みになっていることがあるが、この形状にはちゃんと実用上の意味がある。
この曲線は、完全ナップと呼ばれる曲線を再現している。
(昔の教科書だと自由ナップと書いてある。)
歯形ゼキ(先端がとがった板)で流水を止めたときに、セキを乗り越えた水が自然に作る形状だ。
まず、この曲線より水路底が上側に行かないことで流量係数が最大になるねらいがある。自然に流れる水の流れを邪魔せず、より大きな流量を流すことができる。
じゃあ、その曲線より下側にすればいいのかというとそうもいかない。下側にあるということは、自然に作られた水面形と水路底の間に隙間が空くことになる。隙間が空くということは、気体が入るしかないわけだが、越流部に気体が流入するような隙間はない。そうすると、この面に負圧(逆の圧力)が発生する。この負圧はキャビテーションとも呼ばれ、騒音、材料の余計な劣化の原因になる。
したがって、この自然な流れに(ほぼ)ぴったりと水路底を一致させるしかないわけだ。
ダムマニアからしたら常識なのかもしれないが(私はダムマニアではない)、一緒にダムを観に行った人にドヤれそうな知識を用意した。
ネットで読める資料のリンクも用意したので、興味のある人は読んでください。
『ダムの流量係数』
http://library.jsce.or.jp/Image_DB/mag/m_jsce/39-09/39-9-13932.pdf
わからないので考える
参考動画
www.youtube.com
もう一度現象をみてみる。
砂丘に見られる砂紋、風紋のようにもみえるが、違う気もする。
そしてなんとなくこの紋様の下側が遅く、上側の層が遅い下側の層の上を「滑っていっている」ようにも見える。
そうか。通常の水路でも水路の壁や底に面している場所でも速度が遅くなる。
http://www.asahi-net.or.jp/~YM7K-INUE/openchannel1.htm
速度が遅くなってしまう層と、その影響を受けない層がどこかのタイミングで剥離している。そういう現象なんではないだろうか。
王様の式
これはマニング式、「流速公式の王様」と呼ばれている。
なんで王様なのかはわからないが、いろんな水理学の教科書に書いてあるので、その地位は揺るがない。
水路の勾配、断面、水路の材料がわかっていれば、流量を出せるという代物で、もちろん私も仕事でお世話になっている。
材料ごとに水の流れにくさの係数として粗度係数(粗さ、でこぼこさ)があり、これをあらかじめ求めていれば、水路の能力が推測できる、つまり設計ができるわけだ。
ただこれは確か経験式(何かの理論から導かれたわけでない、実験データをプロットして得た式)だった気がする。
なぜ思い出したかというと、水路の材料に依存して流量を出す、という話だったからだ。しかし、マニング式は、ある断面における流量の分布を与えてはくれない。あくまでマクロ視点というか、ざっくりとこれぐらいの粗さの材料を流れる水路の流れやすさはこう、という値を出すものだ。
今考えているのは、場所ごとに流速が一様ではない現象なわけだから、そういったものまで扱える理論が必要だ。
と、ここまで考えて、あ、そうか、そもそもマニング式は等流を前提とした式じゃないか、と思い至った。
流れの分類
水理学の復習の時間になってしまった。
一応、大学で農業工学を習っていたので、授業はとっていたが、日常的に使わないとこんなもんだ。
水理学を初耳の人のためにいうと、流体力学の中でも水に特化した、どっちかというと土木設計のための実用公式を集めたものです。土木の3力(さんりき)とか言われている。
今回の流れは、流量がほぼ一定として、定常流な気もするのだが、そうだとすると、水理学の教科書に載っていてもおかしくはない。
会社の書庫から教科書・公式集を引っ張り出して来たのだが、どうも載っていない。
それに、水理学は基本的に流れを一次元として扱って、実用的な問題を解きやすくするものだ。今回の紋様を明らかにするには、少なくとも流れを2次元で再現できる理論が必要な気がする。
つまり水理学では歯がたたない(実用的な問題として研究され、整理されている現象ではない)可能性が高い・・・。
じゃあ・・・
・・・・
・・・・・
やっぱり・・・
・・・・・・・・・
借りるしかないわけだ・・・・・・・ヤツの力を・・・・・・・・・・・
流体力学のボス・ナビエ–ストークス方程式の・・・力を・・・
もっと知りたい! 熱流体解析の基礎28 第3章 流れ:3.6 流れの基礎方程式|投稿一覧
次週へ続く!!!!!!!!
というわけで大学で学び損ねた流体力学に入門しようと思います。
ちなみに、ナビエーストークス方程式からマニングの式は誘導できるらしいです。
あと、ナビエーストークス方程式の数学的な一般解が存在するかどうかは未解決問題らしいです。ロマンがあるね。